あらすじ
養蜂場に勤務していたジントロップは、女王蜂から抽出した酵素を用いて「若返りの薬」を研究していたことが原因で、会社をクビになる。
そして経営が傾いた化粧品会社に、自身が開発中である「若返りの薬」を売り込むことに成功する。
だが、薬の人体実験の過程で、恐ろしい副作用が生じることが判明する。
登場人物
・スターリン(化粧品会社の女社長)
・ビル(同社の重役)
・クーパー(同社の重役)
・メアリー(同社の社長秘書、ビルの彼女)
・警備員(同社で夜勤をしている)
・ジントロップ(若返りの薬を調合している研究者)
感想
先日の「B級映画の巨匠ロジャー・コーマンが死去」というネットニュースを見て、どのような作品を製作された方であるかが気になって観た作品(モノクロ映画)。
ジャンルはホラーであるが、全体としては企業で起こり得る日常的な内容ー①重役会議がある➁(他社は売上好調であるにも拘らず)自社化粧品の売上達成率は14%という実状③売上低迷の原因は何か?④色々意見を出し合う(ここでは社長が広告塔を降りたことが原因であるという結論に達した)ーの中に、結果的にホラーの要素が取り入れられているような作品。
そのため、(70分程の中編映画とはいえ)蜂女が姿を現すのはラスト20分に差し掛かったあたりからで、蜂女もあまり怖くはなかった。
しかしながら、同時に、とてもナチュラルな映画となっているため、作品の世界にかなり入り込めた。
ナチュラルというのは、例えば上記④のー(会社を立ち上げてから約18年経った)スターリンが広告塔を降りた理由が「年を取った」からであり、その指摘を暗に受けた彼女の表情からは「自身のプライドが傷付いたショック」と、経営をどうにかしなくてはという「焦り」が伝わってきた。
そして、そのタイミングで、ジントロップの予約訪問があり(恐らく彼は生活費を稼ぐために、いくつもの会社に「若返りの薬」を売り込む手紙を送っている)、スターリンの心を動かしたという流れがある。
スターリンの「あまり時間がないの」という鎌をかけるセリフに対して、ジントロップの「それなら、時間を戻して差し上げますよ」のセリフが、その時のスターリンの欲求を満たすのに十分な説得力を持っていた(互いに「お金になる話」が欲しかったという共通の目的があり、特にジントロップは手紙に応じる人間が、どのような欲を持っているか分かっていたから、何を言えば相手の心に刺さるか知っていたため、自信満々でセリフを言っている)。
スターリンの演技は時折、大きく動くものの、機敏で静謐感があって、ナチュラルな作風にぴったりであった。
スターリンが若返ってからの重役の1人の、彼女を見る目が生き生きとしていたのが面白かった。
クーパーの「最初は仕事をする真似をするが、時間が経てばしなくなる」といった内容のセリフは、現代でもそういう人は少なくないと思った。
クーパーはジントロップを詐欺師扱いしていたが、スターリンへの人体実験中に重大な副作用があることが判明した直後、自殺行為をしたシーンを見て、彼は詐欺師ではなく、純粋な研究者であったことが、より明確になった。
重役会議の時にタバコを吸う者がいたり、ビルがメアリーの机に座って話をしていたり、だらしない会社に見えた(夜勤の警備員が失踪したと聞いたスターリンの態度も、こういった体質の会社ならと頷けた)。
また、スターリンがジントロップに騙されていると思い、彼女の目を覚まそうと尽力するビルやメアリー、クーパーがあちこちに忍び込んで調査する様子を見て、アットホームな会社でもあることが伝わってきた(経営も関わることとはいえ、中々できない)。
ビルとメアリーの会話の距離感が、初見でカップルに見えた演技が凄かった(特にメアリーの気の許し方が、彼氏にしか出さないようなものであった)。
ビルが「失踪した連中の死体はこの建物の中にある」といった内容の話をメアリーにした時、クーパーが研究室内を探っていた時に、奥から蜂女と化したスターリンが出てきて彼を殺害したシーンを思い出して、死体は研究室の奥にあることが分かった(実際は、そこで死体を食べていたようだが・・・)。
とにかくナチュラルすぎる作品。
普通に働いていても、気付かない間に、作中のような心のやり取りはなされていそう。
半世紀以上前の映画だが、ホラー作品で特殊な環境設定なく、こういった作り方ができることが、現代の感覚では斬新に感じた。
ロジャー・コーマンは、(ネットニュースによれば)これまで才能ある沢山の映画人を世に送り出してきたそうだ。
さようなら、ロジャー・コーマン。
そして、ありがとう!
映画業界を盛り上げてくれて!!