登場人物

・ウィリー(セールスマン)

・リンダ(ウィリーの奥さん)

・ビフ(ウィリーの長男)

・ハッピー(ウィリーの次男)

・ベン(ウィリーの兄)

・バーナード(ビフの学友)

感想

「セールスマンの死」。

アメリカの演劇史に名を刻む劇作家アーサー・ミラー原作。

人が年を重ねていくと、形を変えてであっても誰しもが経験し得る物語。

セールスマンという一般職を扱っているだけに、より身近に、どこまででも深みを広げていける作品。

人間の一瞬のすれ違いや、上手くいかないことに対する出来事(上手くいかない時は何をやっても上手くいかない、または裏目に出る。辛抱が必要だがストレスが溜まる・・・)や言動に大変なリアリティを感じた。

人間模様に底知れぬ奥深さを感じた上、会話のテンポも速く、ウィリーの精神病から来る回想シーンも多いため、1度観ただけでは本質を掴みづらいように感じた。

ウィリーの方はビフに浮気を目撃されて以降、ビフに軽蔑されていると思っていた。

一方のビフはウィリーに(高望みをせずに)本当の自分を見て欲しかった?

ウィリー役は、あれもやってこれもやって大変だと思った。

ビフとハッピーは会話のテンポが良く、他のキャスト(特にウィリーとリンダ)は間の図り方が、演技力ともに非常に卓越していた(ウィリーは役者自身が精神病になったことあるだろうという程、キレがあり、リンダの間の良さは姿勢が大きく影響しているように見えた。また、夫婦間でのコミュニケーション能力がハイレベルであった)。

浮気をビフに目撃されるのを防ごうと、ウィリーがチラチラと浮気相手の隠れている方を見るのを観て、浮気相手には自分が独身だなどと言って嘘をついているのではないかと思ったが、ウィリー親子の会話を聞いた浮気相手が笑いながらビフの前に現れたのを観て、その通りだと思った。

ベンに一緒に来ないか誘われて断ったウィリーが、旅立つ兄を駅で見送る時、今の生活も前途に満ちていることを説明している姿が兄を引き留めようとしているかのように感じたほど説得力があった。

ベンがビフに言った「他人とまともにやり合うな。密林から出られなくなる」と言った台詞は、身一つで財を築き上げたベンらしい言葉で、セールスマンのウィリーとは対をなしているように思えた。

ビフがリンダに言った「白髪が増えたね」の台詞のやり取りから、ビフの母親への想いが伝わってきて、リンダがウィリーとビフの関係修復の鍵になっていることが分かった。

ウィリーが毎日自殺?をしようとしている準備は、リンダには耐え切れないが、ウィリーに気づかれないように振る舞っているところに封建的な感じはしたものの、リンダの良妻賢母を感じた(あの浮気バレてんじゃなかろうな・・・)。

ウィリーの勤務先の社長との話の内容が今でいうブラック企業がリストラをする時(または肩を叩く時)のようであったが、ウィリーの会社に残るための交渉力(演技)が見事だった。

ウィリーが電車に乗って、座って独り言を言っている時の隣の乗客などの動きがリアルであった(話しかけられたりして、巻き込まれたくないから、離れたり、普通の人は奇異の目で見たりする)。

ウィリーは重篤な精神病患者。

独り言は仕事上のストレスや幻聴・幻覚に対する反応。

仕事上のストレスは親しい人達にも話しにくい(聞いてくれても、理解はされない)ため、信頼できる同僚などがいなければきついと思う。

しかし、ウィリーはこれまで販路を開拓してきたにもかかわらず、給料を減らされ、信頼できる人も亡くなる等して八方塞がりとなった。

それに加え、ビフの件がのしかかるといった「ストレスのサンドイッチ状態」が蓄積されていった結果、病状が進行してしまったのだと思う(精神病は自覚していない人も少なくない、だからウィリーは薬を服用していない)。

ウィリーの「息子のどこが駄目なんだ?」という問いに答える時の、バーナードの静止してからの切り返し方が話し方に説得力を重ねていて素晴らしかった。

バーナードの父親がウィリーに言った「好かれるのは金があるからだ。あんたは私を好かんし、私もあんたを良く思っていない」は去り際の2人の表情からすると、言葉通りの意味ではなく、2人とも金持ちではないということだと思った、奥が深いな・・・書き終わらんじゃないか。

何でウィリーは庭で人参などを栽培したかったんだ?

昔に戻りたかったってこと??

ハッピーが女性を口説くシーンがコントみたいだった。

ウィリーが自殺するときに光っていた他車のフロントライトがダイヤモンドのように輝いていた。

この物語には至る所で金がチラつく。

ラストシーンのリンダの「(ウィリーの保険金で)家の(ローンの)支払いが済んでも、住む人がいない」という台詞が、金や名誉が全てではないと言っている気がした。

全体としてシリアスな話だが、ツッコミどころもあった。

冒頭で随分長い間、車を運転するシーンが流れると思ったら、時速16キロで走っている設定でなるほどと思った(「普段通っている道なのに景色も美しかった」という台詞も、精神病の影響とはいえ、徐行運転していればまあね)。

この作品には共通点みたいなものがあって、今後のこと(明るい未来)を語る時はどのシーンも、(牧場を買う話を兄弟でしている時やビフの大学の話をしている時など)とても楽しそうに話していた(人生そんなに上手くはいかないな・・・)。

ウィリー一家が騒いでいると隣人がやってきて「うるさいんでね。ここ(ウィリーの家)でクシャミをすると、ウチ(隣人の家)で帽子が吹っ飛ぶ」(そんなバカな)。

ウィリーが言った「一度でいいから(家具などが)壊れる前に、(ローンを?)払い切ってしまいたいよ」(家はともかく、他は何年ローン組んでるんだ?そんなに何でもかんでも壊れるか?)。

ビフがレストランで面接の結果が駄目だったことをウィリーに話そうとした時、ウィリーが「会社をクビになった」と言うシーン(父親であるあんたが先に言うんかい、ビフが言いづらくなった)。

でもハッピーが、ビフが話を切り出すためにいつでもフォローできる状態を維持していたのが良かった。

そして、「セールスマンの死」をデジタル時代となった現代の劇にするとどうなるだろうと思った。

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