あらすじ
フィリップが婚約者のマデリンと結婚するためアッシャー家を訪れるが、アッシャー家の当主ロデリックはマデリンとフィリップの結婚に反対し、奇妙な行動を取り始める。
登場人物
・フィリップ(アッシャー家へマデリンを訪ねてやって来る)
・マデリン(ロデリックの妹、フィリップの婚約者)
・ロデリック(アッシャー家の当主)
・執事(アッシャー家の執事)
感想
カラーではあるが、画質が悪くモノクロ映画よりも見づらい。
けれども、恐怖を演出する美しい音楽やBGM、霧や古ぼけた不気味な屋敷などが素晴らしく、細部に拘りが見受けられた。
原作がエドガー・アラン・ポーだけあって、世界観が独特すぎてイマイチよく分からないのだが、ロジャー・コーマン作品だけあって、俳優の演技がとても(特にロデリック)ナチュラルであった。
何も考えずに、感じるままに映画館のデカいスクリーンで観ると凄く怖いと思う-どこかの映画館でやってくれないかな。
執事の足が不自由な演技が、やってる感が出ていなくて良かった。
フィリップが館を訪れる時のドアをノックしようとして、手が汚れたことを表現する力が自然だった。
フィリップの前から急に人がいなくなったり、再び出てきたりのシーンが何度かあったが、ナチュラル作品だけあって、直後からの会話の入り方が素晴らしい(フィリップは驚いているが、相手は何事もなかったかのような感じで出現する)。
フィリップが「マデリンに会わせてくれ、自分は婚約者だ」といった内容の台詞を言ったとき、執事が「お会いできません」と言ったのは、フィリップが馬に乗って来訪する直前にロデリックから指示を受けていたから-ロデリックは非常に耳が良く(神経過敏)、外の衣擦れの音や蹄の音まで聞こえる-だと思った。
にも拘らず、なぜ執事が押し切られてフィリップを館の中へ通したかというと、マデリンの婚約者である彼ならば、この状況を何とかしてくれるかもしれない、何とかしてほしいといった想いがあったからだと思う-執事はフィリップがマデリンの婚約者だと聞いて驚いていたし(彼女との関係は承知していなかったように見える)、最後のシーンでマデリンが死んだと思って帰宅の途につこうとしていたフィリップに「先祖の中には硬直症で死んだ方もいる」といった内容の台詞を思わず口走ったり、「マデリンが生きていることを薄々知っていた」という懺悔するようなやり取りもあるからだ。
ロデリックが先祖の悪行などを語っている時の、フィリップの恐れおののいて、後ずさりする演技が良かった。
また、ロデリックに「マデリンはどこだ」と詰め寄った時の、始めは力弱く、そして次に段々と力を込めて迫る演技も素晴らしい演出力だった。
フィリップが危うくシャンデリアの下敷きになりそうだったシーンで、マデリンが彼を心配して、必死になって駆けつけたとき、フィリップが彼女の額にキスをして思い切り匂いを嗅いだ行動が彼の安心感を醸し出していた(好きな匂いを嗅ぐことで安心する)。
フィリップが「ここを出よう」と言ってマデリンが「ええ」という内容の台詞を言った直後のマデリンの視線(フィリップの顔のあちこちを見ている)が、きっと彼の顔立ちも好きなのだろうと思えた。
マデリンの朝食が粥であることも、執事がフィリップに言った「マデリンは少食」という内容の台詞に説得力を与えていた。
そして、フィリップがマデリンの部屋に粥を持っていったとき「朝食はいいわ」と言ったのを聞いたフィリップの「ここを出よう」の台詞と表情(目と口元、頬の硬直具合)からは強い意志と決意が感じられ、このままではマデリンが取り返しのつかないことになるという、彼の危機感が伝わってきた。
ロデリックの演技が全体的に際立っていた-先祖の悪行を語るときの静かに、それでいてフィリップを脅かすような話し方や、館の昔話をする時の、近くにありながら遠くを眺めているような視線など-。
また、ロデリックがマデリンを失ったフィリップに目を閉じながら「君の苦痛がうらやましい、君の苦痛なら耐えられる~」から、耳が良すぎるロデリックには生きているマデリンの叫びが聞こえているのだと分かった(悪霊に取り憑かれたとはいえ、妹が助けを呼んでいる)。
マデリンを救出するために、フィリップが迷宮に入り込んだ時、拳銃を手にしたロデリックが聴覚に神経を集中させて部屋の物音に反応している演技を見て、迷宮が館の部屋部屋と繋がっていることが分かった。
フィリップに「館が崩れるのが怖くないのか」という内容の台詞を言われた時、執事は「それが私の最期です」と答えているが、60年も館に住んでいるという設定は、アッシャー兄妹が子供だった頃から知っているということであり、兄妹に対する思い入れはいかばかりであったろうと思う。
それが演技全体に出ていた。
また、館が揺れて鍋が落ちそうになるのを慌てずサラッと元に戻して、口元の表情で表現するところが作品の雰囲気を壊さない演技で素晴らしかった。
などなどホラーの名作、一挙手一投足が見逃せない。
ぼーっと観て、純粋に作品を堪能したかった。